まさに旅をするための自転車

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今回の目的地は「万座温泉」

恒例になっています、ROADREX i 6180で行くぼくの自転車旅、今回の目的地は群馬県の万座温泉でした。万座温泉には、ぼくが学童期のころから何度も訪れており、草津も含めると、同エリアにはかなりの回数にわたって訪れています。この地域の大きな魅力のひとつは温泉ですが、小さい頃はあまりそこに興味はなく、景色も見ず、身体を動かして遊べることばかりを求めていた記憶があります。小学生は紅葉に興味はないですもんねw

紅葉のピークにはまだ少し早いものの、夏から秋冬へと季節の移ろいを感じます。真っ赤に染まった山の景色もきれいですが、段々と新緑が陰っていったり、雲の様子の変化から秋を感じたりするのもまた、日本の四季を感じる醍醐味だと思います。

この地域に行く場合、気にしないといけないことは気温でしょう。万座温泉の標高は約1,800メートルと、2,000メートル近くもあります。万座に限らず標高が高い地域というのは、日中と夜間の気温差が大きく、プランニングする際には気をつけないといけません。なおかつ、この季節は油断すると路面が凍ったり、雪が降る可能性もゼロではありませんから、しっかり見極めつつ、機材や装備品もそれに対応して変更が必要になります。宿を予約するので、今回は約4週間ほど前から当日の気温を予測しなければなりませんでした。気象庁の年ごとのデータを参考にもします。しかし、一ヶ月での季節の進み方は毎年均等ではありませんから、4週間後を予測するのはたいへん難しいことです。実際、根拠はありませんから、希望的観測というやつではありますw

最悪の場合、季節が急に進んでしまい初霜だ初雪だとなってしまった場合には、カーシェアを利用して移動するにはシビアなコンディションになりますから、行き先の変更が必要になるでしょう。そうなると、宿にはキャンセルをいれるわけです。そのためにキャンセル保険をかけておきました。500円ほどの掛け金でカバーできます。もちろん、キャンセルした場合には宿に迷惑はかかってしまいますが、天候の変化は起きてしまうのである程度は仕方なく思います。今回の場合、まともに行けば大丈夫そうなので行ける確率は高いからそのようにしましたし、「とりあえず予約してキャンセルすればいいや」というつもりではありません。

すばらしい景色

この季節に限らず、万座の大きな魅力の一つは地形の様子です。火山活動によって作られ、現在も活発に活動を続ける地域では、常にあちらこちらから白い煙や火山ガスが放出される様子が見られ、そのライブ感とアドベンチャー感は旅する人の気持ちを盛り上げてくれます。日本の山林といえば樹木で覆われている低山がつくる里山の印象が強いと思いますが、ある一定以上の標高になるとガラッと印象の異なる景色を楽しむこともできます。裏磐梯でも同じ様子がみられます。ぼくはこれらの地域の壮大さが大好きなのです。同じように三宅島も好きなので、ぼくは火山が好きなのでしょうw。いいですよね、活火山(え?)。

標高差をどのように超えるか

今回のコースは万座から草津を経て六合村まで下り、観光したあとで、また登り返す約70キロを予定しました。スタート地点の標高は約1,800メートル、そこから2,000メートルまで登った後、800メートル弱まで一気に下ります。帰りはここを登ってくるわけですから、約22キロで1,200メートルの登りゴールというわけです。その長い登り一本以外でも平坦な地形はほとんどありませんから、すべて合わせると約2,000メートルに達します。うーん、けっこうすごいw

出発時間は9時、気温は約13度。酷く寒いわけではなく、路面は凍ってもおらず大丈夫でしたが、慣れていない土地で何が起きるかわからないので、不安とともにスタートを切りました。ロードバイクに乗り、かつサイクルジャージで走る場合にはより一層の不安を感じるでしょうし、取捨選択が必要でしょう。しかしEバイクの場合、かつROADREXであれば、キャリアと20Lのパニアバッグを使えますので、寒くなった時に必要なジャケット、アンダーウェアの替え、あるいはその他必要な小物類もすべて持って走ることができます。

Eバイクに乗ったことがない人は、何もしなくても登れるくらいアシストが受けられると思うかもしれません。しかしそれは間違いです。もし、今回くらいハードな山岳コースをEバイクで、途中無充電で走り切るには、ロードバイクで100キロくらい走れる程度の体力を備えておく必要があります。また、10キロ以上続くダウンヒルを安全にクリアするには、それなりの走行経験も必要です。ですから、買えば誰でもできるというわけではないことは、付け加えておきたいと思います。

いろいろな余裕

しかしながら、Eバイクが体力の不足を強力にバックアップしてくれるのは間違いありません。今回のコースをぼくがロードバイクで走る場合、完走することはできると思いますが、いろいろな余裕がなくなってしまうと思います。走行するペースを落とせば、多少の肉体的、精神的余裕は生まれそうですが、今度は時間的余裕がなくなってしまう。この日の日没は16時50分ころ。まだ真冬ではないものの、遅くとも16時には行動終了しておかなければなりません。でもそれは、ぼくにとって最悪ではないけれど、ややバッドエンドな展開。平坦地域や海岸線沿いならまだしも、標高の高い山岳地域では15時半を過ぎるとかなり暗く感じるでしょう。

日が斜めになる秋冬は、13時を過ぎるとあっという間に気温が低下してしまいます。そして、油断するとあたりは真っ暗になってきます。草津での最高気温が20度ある場合、万座では15度くらいだと思われます。標高が100メートル高くなると、気温は約0.7度下がるからです。それを考えると、やはり15時過ぎには余裕を持って完走するプランを立てたいところ。なぜなら、パンクやその他のトラブルが起きた場合に備えなければならないからです。そうなると、草津を早めの13時半には出ても懸命に登らなくてはならないし、それまでの間も絶えず速く走るということに務めなくてはならない。途中で停止するなどし、気持ちに余裕を持って観光をするのはちょっと難しそうに思えますし、スタートからゴールまで、ある程度の”緊張感”を意識して維持しておかなければ、安全かつ安心して完走するプランを完結することは難しくなってしまいそうだと感じます。

むろん、ロードバイクとはそのためにあるものであり、そういう楽しみを堪能するためにありますし、疲れ果てるためにあるものですから、当然といえば当然です。ぼくは決して、それを否定しません。むしろ、楽しみさえする場合もあります。ただ、そのあらゆる余裕がなくなってしまうせいで、走っている最中の記憶は乏しくなってしまいます。何を見て、何を感じて、何を思ったのか覚えておくのは難しくなります。それはなぜなのか?考えてみましょう。どうしても、できる限り一生懸命走ることに務めた場合、身体を機械のように無感情に動かすことが必要だからだと思います。これがうまくいった場合、ある時期から言われる”ゾーン”のようなものに近づいていき、なんとも言えない快感をもたらしもします。また、プレッシャーからの開放やつらければつらいほど高まる達成感もまた、そのような楽しみにおける醍醐味だと言えます。

Eバイクにおいては、この部分がまったく異ことなります。旅の楽しみ方や期待がまったく違ってきます。すべてに余裕が生まれます。体力に余裕が生まれるのはご想像の通りですが、それ以外については意外と想像していただけない場合もあるので説明します。時間的余裕が生まれることも合わせて大きくポジティブに影響するのですが、「とにかく気持ちがラクに」なります。気持ちがラクになるので、楽しむ余裕が自然にでてきます。最後の坂道が、20キロ以上ものヒルクライムが、あまり心配ではなくなります。前述したとおりで、まったく楽チンではありませんが、ちょっとだけ頑張るのを継続し続けるだけで、登りきれてしまうことがわかると、まったくラクな気持ちになります。Eバイクを利用することで得られる体力的な余裕により、多くのことに見通しが立つようになります。

苦しさや緊張感により強張ってしまいがちだった顔の表情は緩み、リラックスした時間を過ごすことができます。これは本当に素晴らしいことです。それぞれの人が保有している体力を使い果たす場面にどんどん近づいていけば、誰もが同じく緊張するでしょう。これまで自転車における旅とは、かなりスポーツ性が強いものでした。そういった緊張感を味わうことを楽しめる、そんな人でないと難しかったはずです。それに耐えられた人や、できてしまった人にとってはなんということはなくても、受け入れられない人にとっては自転車による旅はとてもむずかしいことに見えたはずです。でもEバイクを利用すれば、そんな人たちの多くが、ちょっとした勇気さえだせれば、機材を手に入れれば、自転車による旅というとてもリッチな体験を得ることができるでしょう。

ロードバイクとEバイク、それぞれの人には、それぞれの楽しみ方があります。いずれもあって良いのです。お互いを認め合う必要はなく、ただただそれぞれがあれば良く、別の楽しみで良いのです。ただ、ぼくのように両方を楽しむ人もいる場合もありますし、片方しか楽しまない人もいます。

地域への理解

ここからは旅の概念に関することだったり、楽しみ方への案内だったり、あるいはぼくなりの旅の方法論なので興味のない方もいるとは思いますが、一応は書いておきたいと思います。ぼくも若い頃にはまったく考えていなかったことです。自分にはまだまだ多くのことが可能であり、体力さえあれば何でもできるし、楽しむことができると思っていました。「元気があれば何でもできる」のには賛同しますが、元気がまさかメンタルから来るものだなんて思ってはいませんでした。たしかに気合いは大事ですねw。どっちが先に立つべきかはわかりませんが、ぼくはメンタルなのだと思います。加齢により考えた方が変わったり、精神的なものが変わり、結果として体力が低下するプロセスを踏んでしまうのだと思っています。

もしそうなのであれば、体力を回復させるにはまずメンタルから回復させる必要があるということになります。だからけっこう難しい。相当に気合を入れてやり切る必要があるでしょう。それはストレスになり、楽しみと苦しみが同義になってくる。それでもやりきれればいいと思いますが、一つまた一つと重ねていく加齢による影響を感じつつも継続していくのはたいへんなことです。チャレンジすることが有益だと思いますが、ぼくも他の人も同じように、いつかは割り切って、別の楽しみへとレールをかけかえるタイミングが来るでしょう。

あるいは生活スタイルの変化も起きるかも知れません。これまでは体力を維持するなどの目的のために費やすことができた時間が、継続して確保することができなくなったりするかも知れません。Eバイクによるサイクルツーリズムには、練習といわれる時間がほとんど要らなくなってきます。ある程度の経験値を積むための時間は必要でしょうけれど、それを常に確保しておかなくても、その時なりの体力の中で自転車を利用した旅を楽しむことができます。これはたいへん素晴らしいことだと思います。

サイクルツーリズムについて語る時、「いかにお金を落とすか」こそが大切だと思う人もいます。それはそれで良いことだと思います。地域に貢献する方法の一つでしょう。ぼくは、ぼくがその地域に住んでいると考えた場合、その土地の文化や歴史やひとびとを理解してくれるような努力に期待するだろうと思いました。どんな地域の人も自分が生まれた土地や育った地域を愛しているでしょう。また、それを理解し、肯定してほしいと願っていることと思います。その土地にコミットメントするもっともわかりやすい方法として、お金を使うことは大切で欠かせないことだと思いますし、その土地の文化や歴史との対話をするために自らが開かれることもまた大切なのではないかと思います。

人とのふれあい

地域との交流で最もわかりやすいのは、その土地の人と少しでも対話することだと思います。すれ違った時の挨拶、何か買う時のちょっとした会話、あるいは同じところを観光している人との自然なやり取り、そんなほんの少しの交流が積み上がり、それが地域に伝わり、自分たちが理解されているのではないかと勘違いする。はい、勘違いではあると思います。でも、その勘違いがたいへん大切なのだと思います。実際にその土地の暮らしをほんとうに理解することには程遠いでしょう。しかし、他者だからこそ、観光客だからこそ、無責任にいろいろなところを見て回り、話をしたりし、それなりの感想を勝手に抱くことができます。これがあまりに当事者と同じ考えや意識に同化してしまいますし、違う意味を持ってしまいます。

ぼくの店は浅草から徒歩10数分のところにあります。以前も浅草には多くの観光客が訪れていましたが、その数や訪れる人々のプロフィールはどんどん多彩になり、そこにいる人だけ見ていると、そこがどこの国なのかわからないくらいです。そんな浅草にいると、観光地に住んでいる人の気持ちが少しずつわかってきます。見知らぬ人がどんどん来るとはこういう気持ちなのか、観光地を内側から見るとこう感じるのかと少しずつ理解がすることができました。そこで感じたのは、やはり話すことの大切さです。話すと言っても雑談ですね。ちょっとしたことです。どこから来たとか、どこへ行くとか、何をしたとか、どう感じたとか、寒い暑いそんなことでいいのです。その点、海外から来る人のほうは上手だと思います。雑談に慣れている気がします。これはきっと熟議をする文化があるからで、いろいろなことを言われ慣れている感じがします。一方日本人は、特に最近では、政治的なことを極端に避ける傾向がありますし、相手に不快感を与えてはいけないという行き過ぎた認識にがんじがらめになっていると思います。

Eバイクに乗る際の衣類がサイクルジャージではないことは、良い方向に働く気がしますが、実際には単に見た目の問題ではなく、その人の所作や自身の気持ちが理由なのではないかと思います。先に述べたように、スケジュールに余裕がなくなってくるに従い、段々と視野が狭くなってきますし、周りのことを気にすることができなくなってきます。ジャージを着ていることで、周囲との親和性が薄れていると自覚し、その人自身の行動を変化させてしまっていることも言えるのではないかと思います。Eバイクを利用し、なおかつ普段着の自分でいることで、その土地のひとびととのコミュニケーションが容易に発生しやすくなる。これだけで、お互いがわかりあえたのではないかと、勘違いすることができそうです。

走る、見る、食べる、撮るのすべてをカバーするROADREX

これまでお話したように、ROADREX i 6180で楽しむツーリングは、走ること、つまりこの場合には移動することを利用して、移動した先にあるさまざまな魅力的なコンテンツを実際に味わうことができます。その移動速度は、高速ではないものの、むしろそれが速すぎない程度であることが作用し、自分を取り囲む多くのコトに目が届くようになります。観察眼が働くようになります。そのような気持ちの余裕が生まれますし、実際にコンテンツを楽しむ時間的余裕ができます。体力的な余裕を生むことで、いろいろなことに可能性が広がります。

自転車について、あるいは自転車でのツーリングについて語る場合、それを「走ること」にフォーカスしすぎてしまう傾向があります。どこを走るか、どこを目指すか、どのくらい走るかということには真剣である一方、どんなコトをするかという部分にまで気が回らないことが多いのではないかと思います。それは何度も書くように、余白がなくなるからです。暇がない、それにつきます。退屈ではなく、暇な時間をどうやって確保するか、それが走るコト以外を楽しむためのポイントでしょう。

もちろん、距離を短くしていくことなどすれば、Eバイクでなくともその余白は生まれるではないかという意見は、まったくその通りだと思いますが、ぼくはこのように思います。本来的には、やりたいコトや行きたいトコロが先にあり、その場所へ自転車で移動するのであって、先に移動する範囲や地形の限界がある場合、果たして本当にやりたいコトが見つかるかどうか疑問だということです。ですから、ロードバイクでのツーリングというのは、走るということを目的化するほうが合理的であり、自分自身を納得させやすく、走る以外のコトが薄まってしまうのは仕方のないことだと思います。ロードバイクを楽しむ場合、コトよりもモノの話が増えてきたり、濃くなってくるのもまた、ごく自然なことだと思います。

一方、Eバイクを利用したツーリングというものは、ロードバイクを利用して行うのと比較して、まったく違うものであるということがご理解いただけたのではないかと思います。機材についても、あまり真剣にモノについて考える必要性が薄くなってきます。どのクルマを買うかまでは好みなどにより判断したり、考えたりはするものの、そのモノをどのように個性的にするかまで考える人はあまり多くないでしょう。必要性が薄いからですし、多少便利にする程度はアクセサリ等を付け加えるでしょうが、それを使って行う旅の楽しみ方や楽しみの大きさには、クルマ選びはほとんど影響しないからです。クルマ好きにとってみれば、どのクルマで旅をするかは大切なのでしょうけれど、それ以外の人にとっては、自分の好みさえ反映されてさえいれば、どのクルマで旅をしても、その機能性によって旅の楽しさはあまり変化しないでしょう。つまり、旅の楽しさはモノ選び以外のコトにあるのです。

旅の成功率を高めるすばらしいバイク

ぼくはここ数年の間、新旧のROADREXを利用してたくさんの旅をセルフプロデュースしてきました。そもそも、ぼくの自転車旅は、ぼくが若い頃に訪れた場所を再訪するという、記憶の反芻ではあるので、まったく新しい土地に行くということは基本的にありません。ですが、あらためて自転車でその場所を旅して走るということの満足度を高めようと思った場合、ROADREXはもっとも優れた相性を発揮してくれたと思います。

ROADREXはMERIDAのSILEXをベースに設計されました。SILEXは何でもちょっとずつできる万能なロードバイクとして設計されました。これにSHIMANOのSTEPS 6180ドライブユニットを搭載し、軽快、安定、楽しさがちょっとずる味わえる650Bホイールサイズを採用したものがROADREXだと言えます。これはEバイクに限って特に、Eバイクを選ぶ際、それについて語る際、カタログスペックから導いてはいけません。それはそのEバイクのごく一部だけを見るものであり、もっと俯瞰して全体を捉えなくてはなりません。物語性に目を奪われすぎないほうがいいと思います。一部だけを見る場合、その部分がネガティブに見えると、そこばかりを気にしてしまいますし、物語性ばかり気にしてしまうと、物語の中の嘘が見抜けなくなってしまいます。大切なことはバランスであり、使用目的に対する実用性です。ある種類の限られた人に愛されるのではなく、誰もが利用でき、多くの人に理解されやすく、多くの人が旅を楽しめるようにROADREXは設計されています。

ぼくのこれまで、いろいろな場所でさまざまな目的のために、多くの地形を走り、その時々の天候や環境下でROADREXを利用してきましたが、こんなにも不安を感じにくい自転車ははじめてでした。不安とは、その旅の目的やプランを達成し、楽しめるかどうかに対するものです。何度も言うように、走るだけなら多くのパターンで可能なのです。でも、旅の中に余白を持ち、走る以外のことも楽しむとなると、それができる自転車は限られてきます。ROADREXはいろいろな旅のスタイルにフィットし、そこでうまく働きます。そして、”自転車で走る”という満足も含めて、旅の質を向上させます。多少自転車に乗ることができる人なら、もはや走れない場所はないとも言えます。どんな地形であっても、それがある程度の常識の範囲に収まるならば、ROADREXとともに旅を楽しむことができると思います。