ASPITE PROを使ったことがない人は使ってみて〜!

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IRC ASPITE PRO
IRC ASPITE PRO S-LIGHT
700x25/28/30C 7,480円

前作が好きではなかった方にも

現在販売されているASPITE PROは、前作から2代目となるタイヤです。それより前にもIRCのロードバイク用レーシングクリンチャータイヤは存在していたのですが、ほとんど存在感は有りませんでした。店頭で並んでいるのを見ることもあまりなかった印象がありますし、ぼく自身も使ったことは有りませんでした。初代ASPITEがデビューしたのは2013-14年くらいだったかと思います。そこから8年ぶりの刷新となった今回のASPITE。とにかくバランスが良くなったということに尽きます。レーシングタイヤでありつつも、誰もが使いやすくバランスが整えられたタイヤになっています。

「チューブレスに迫る」というコメントの真意

「チューブレスに迫るしなやかさや軽さ」というワードが、発売当時からメーカーオフィシャルな意見を持つメディアで盛んに報じられていました。きっと、何らかの口裏合わせか、忖度があったものと思いますし、それに対して異論を唱えるような声はあまり聞こえませんでした。しかし、ぼくはその時から「この感覚はチューブレスのそれとは異なる」といい続けています。これはチューブレスではないので、チューブレスであるかのように伝えても違うと思うのです。

やはりクリンチャーらしさはありますし、ASPITE PRO使用後に、FORMULA PROを使ってみると、やはりその特性がまったく違うということを感じます。しなやかさというのは、タイヤサイドの柔らかさに対して表現されることが多いと思いますが、チューブレスのそれはASPITE PROよりも抵抗にならず、きれいに路面を舐めていくと感じます。

”チューブレス迫る”と言っても、構造的に別物なので、クリンチャーをどんなに改良しても、転がり抵抗でチューブレスに迫るということはできません。どんなに構造や素材で頑張っても無理なので、今回のASPITE PROでも同じでしょう。実際の性能では迫れない、じゃあ何で迫るのか。。。

選手の言うコメント

「選手は非常に感覚的なので」
「選手のフィーリングと開発データが一致しないこともしばしばありました」

これらのコメントからもわかりますが、選手は感覚でしか捉えていません。本人のコメントでは「転がり抵抗がよくなった」「スプリントでも抵抗になっていない」などと言うんですが、実際にデータ上でもそうなっているというわけではないでしょう。むしろ、チューブレスの方が性能は上ですが、選手はいい感じを得ないことは多かったわけです。また、「これはフォーミュラプロと同じなのでは?」と転がり抵抗についてもコメントしていますが、クリンチャーで抵抗になるのはタイヤとチューブによる摩擦ですから、クリンチャーではタイヤをあまり動かさないほうが抵抗は減ると思います。ただ、そうなると、美味しい空気圧のゾーンは狭くなります。ですから、クリンチャーはその性能の良いところと悪いところがはっきり出ることが多く、そのバランスを取れる空気圧の範囲が非常に狭くなります。しかし、ASPITE PROは積極的にタイヤの形を変えるようにすることで、スイートスポットを広く感じやすく作られているように感じます。

新しい試験機の導入と新しいトレッドパターン

新しいASPITE PROでは「IRC HELLING BORN PATTERN」という完全に新しく開発されたトレッドパターンが採用されています。パッと見はコンサバティブな杉目に見えますが、よく見ると非常に複雑なパターンになっていることがわかります。これにより、転がっているという感覚を相殺しないようにしつつ、バイクを倒すほどグリップを増し、かつ安定感を感じさせるコーナリング性能を実現しています。そのキーになったのが、ローラーベルト上で自転車の動きを再現し、その上でタイヤにかかるあらゆる状況を作り計測できる「路面特性試験機(フラットベルト試験機)」です。

「自転車がどういう動きをしているのか、あるいはコーナリング中にどのようなGがかかっているのかも分かりますし、それを試験機で再現できる。自転車のバンク角やスリップアングルを付けつつ、リアルタイムにロードセルでデータを拾っていく。ライダーが言う”グリップがいい””フィーリングがいい”と言うのはどの要素なんだろう、と紐解いていけるのです」

なるほど、このコメントからも、乗り手に好まれることを目指したタイヤ開発なのだということがわかります。自転車は機材スポーツだと言っても、性能を発揮させるには乗り手が主体として動く必要があります。選手や乗り手自身が安心して扱うことができる道具は素晴らしいですし、実力を発揮することができるでしょう。ある限定された環境や状況でだけ性能発揮するものは、扱うのが難しい道具になってしまいます。

いいバランスのタイヤだと思います

「ASPITE PROが進化して良くなったと感じるところは、コーナリング中に自分がイメージする理想通りにタイヤが潰れていき、コーナーからの立ち上がりでも自然に起き上がっていくようなフィーリングです。テストする中にはタイヤが潰れるタイミングが遅く、コーナリング中に違和感を感じる物もあったので、ASPITE PROの仕上がりは自分好みになっています。」

バランスを整えたということが、ぼくはレーシングタイヤからやや遠のいて設計されたのかと思ったのですが、今回の記事を読むと、レーシングタイヤとして選手の意見をしっかり取り入れているんですね。つまり、選手側の意見が10年以上前と比較してだんだんと変わってきたということかも知れません。もちろん、10-20年前とは自転車がまったく違うものになっていますので、それに伴って乗り手の感覚も刷新されていくのは必然だとは言えます。ただぼくは、選手は相変わらず設置感の薄く、軽む硬いタイヤを好むものだということは変わりないと思っていたので、ちょっと意外性も感じました。エンジニアが高性能を目指してタイヤを設計しても、選手にとっていい感触じゃなければ結果も出にくくなってしまう。これは自転車も同じで、エアロロードが増えましたが、選手から総じて良い感触を得やすかったのはオールラウンドタイプでした。だから、その2つは統合されたり、お互いに近づいていったりしました。

いまもまだコンチネンタル至上主義が一般化しているように見えますが、ヴィットリアのコルサも高い評価を得るなど、一時期よりは弱まったように見えます。ぼくの中でASPITE PROは、現在市場にあるクリンチャータイヤの中でBEST3に入るタイヤですし、価格や供給の安定感も鑑みれば、ベストなタイヤの1つだと思います。