[コラム] 自転車業界の現在、あるいはこれまでの状況について

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2020年から続いているCOVID-19のパンデミックにより引き起こされた納期の不安定化と在庫不足(以下、事象と呼ぶ)は、現在もまだ継続的に存在しています。当初は部分的なものでしたが、ありとあらゆる製品に波及しました。原因はウイルスそのものだけではなく、それに関わる政治的判断により起きた労働力問題や戦争が起きたことによる様々な弊害が、この事象に対して壊滅的な追い打ちをかけました。しかし現在、最悪の状況からは徐々に脱しつつあります。

もうすでに年単位での時間経過を経験していますので、ようやくというところではありますが、徐々に部分的にではありますが、生産と流通が戻ってきています。ただ、遠くまで見通せるような状況はまだ先です。今もまだほんの1-2ヶ月先くらいの納期ですら”確定”していない状況に変化はありません。しかしながら、その1-2ヶ月先、あるいはもう少し先へと、納期情報の”確度”は高まってきています。それは先程申し上げた、緩やかな回復によるものだと思われます。自社工場で生産しているメリダでこの状況ですので、ファブレス(工場を持たない)メーカー、かつ小規模になればなるほど、回復による良い影響は小さくなり、難しい状況が生まれていることでしょう。実際、この2年間に廃業したメーカーも多くあります。

多くの方はこの状況に不満を抱かれていることかと思いますし、そのお気持ちはお察しいたします。原因が多岐に及ぶため、それに対する対策を打つにも限度があり、またその予算にも限りがあります。「なぜなんだ!」と自分より上流にある人々に対して不満を言い、対策を求めることは可能ですが、今回の事象はそうかんたんに、誰かの努力によって回復が急速に早まったり、あるいはそれに無関係でいられたりする種類のものではありませんでした。これは皆さんの周りで起きている他の事象と同様です。自分ではどうにもならない波もあり、できるだけ避けようと努力しつつも、飲まれるしかない場合がある。それが今回私たちが学んだことでしょう。このことに、私たち販売店の多くも、皆さんと同じように大きな失意や絶望を感じてきました。納期の確定されない事態を伝え、謝罪し、納期の変化に翻弄されるのに、さすがにかなり疲れてきたというのが正直なところです。

はっきりと発言する方が多くないのは不思議ではありますが、2020年末から現在に至るまでいくつかのメーカーだけでなく、販売店も廃業しています。皆さんの身の回りでも、廃業されたお店はありませんか?原因は努力不足であり、経営ミスであるという場合もあるでしょう。しかしながら、それだけで説明できない影響が潜んでいると思います。潜むというにはあまりに遠慮がちであり、もはや色々な要件をドライブしているのはそれだとも言えます。いくつかと言いましたが、それほど少なくはありません。また、その危機は現在も継続しており、2024年を迎えられないお店もあると思います。当店が今すぐそうなることはありませんが、大変な状況にある販売店が多くあります。どうか、この事象がもう少し回復するまでお時間を頂けないでしょうか。努力不足であるとの声は真摯に受け止めます。継続して努力していきます。その上でどうかお願いをしたいと思っています。

当店ではできる限り率直に、素直に、これまでも生産と販売を取り巻く状況についての情報を提供してきました。それは皆さんに合理的な判断をする助けになればと思っているからです。現在、私たちの周りには多くの飛びつきやすく聞こえの良い情報があふれ、それによる瞬間的な感情の揺さぶりにより、何かのアクションを起こさせるトレンドが極まってきています。どちらが幸せか、それは私にはわかりませんし、問うつもりはありません。情報に翻弄されていても、本人は気づかないものですし、気づかれずに楽しんでいるだけだと認識するからこそ、プロパガンダは成立します。冷静に見極めて合理的に判断したいということを望む場合、その材料はどんどん減っていると思います。今回のこの文章も、あくまで率直にお伝えしているのはその材料になればと思うからです。冷静な判断とは、ただ時間をかけることではなく、時間をかけるべきか、今すぐ動くべきかを判断することだと思います。動くべき時に動けるようにしておかないと、あるいは動かないと、納期が延びたり、価格が上がったりしてしまったのが、今までの2年間だったと思います。

遠くまで見通せないのは自転車に関わることだけではなく、国際社会全体にまで及び、さまざまな不安を感じる世界になってきています。その中で自転車はただ走ることしか提供できません。しかし、パンデミック化においても、人間が自転車に乗ることで精神や肉体に影響する良い効果は伝えられていました。段々と人々が現実世界で移動を回復し、コミュニケーションをすることの楽しみを取り戻しつつある現在において、自転車は身近ですばらしい”移動する楽しみ”を提供できるものです。特にメリダミヤタのような総合メーカーは、レースだけ、キッズだけではなく、自転車を利用するあらゆる人々に対してリスペクトをし、そこに関わっていきたいと思っています。BESVのようなEバイク専門メーカーは、レースブランドより幅広い方を楽しませることができます。今後は日本でも、自転車によるツーリズムへの利用が多くなり、様々な楽しみ方が提案されるだろうと思います。ぜひ今後も、皆さんの人生とその生活に自転車を利用いただければ幸いです。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。次回のご来店を心よりお待ちしております。