[コラム] 新城幸也選手と馮俊凱選手が語ってくれたこと

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あまりに率直

馮俊凱選手に会うのはこれが3度目だったと思います。そのたびに感じるのは、彼はとてもまじめだということです。カッコつけるようなコメントや真実を覆い隠すようなことをいうことが多いヨーロッパの選手に対して、彼の言葉はいつも素直です。

台湾の国立体育大学を卒業し、スポーツエリートとして行きてきた馮俊凱選手。台湾国内の選手として頑張っていたわけですが,メリダがロードレースチームに対して本格参入することを機会に、ワールドツアーチームの選手として認められるに至りました。その馮俊凱は来季、バーレーンヴィクトリアスとの契約を終了し、宇都宮ブリッツェンと契約します。そう、日本で走るのです。JCLで、TOJで、北海道や熊野や沖縄で彼の走りを観られることになりました。

ぼくは彼の大ファンなのでとてもワクワクしていますが、喜ばしいだけのことかというとそうではありません。その背景を想うと、複雑な気持ちになります。実力としては、年齢的なことを考えればなお、キャリアのピークはもうとっくに過ぎています。88年11月生まれで、いま33歳。自転車選手を続けることは可能でも、一線級をキープすることは難しいでしょう。実際、彼は今シーズン、グランツールにも出場していませんし、大きなレースにも出場できていません。春先のパリ〜ルーベにエントリーしたもののスタートできず、その後は5月にツール・ド・ホングリエ、10月にツール・ド・台湾を走って、今回のジャパンカップと、新城幸也選手の1/3〜1/4くらいしか走っていません。

馮俊凱(Pro Cycling Stats)
https://www.procyclingstats.com/rider/chun-kai-feng/2022

誰も書きませんし、裏もとっていませんが、リザルトを見れば明らかなので、ほぼ自明だと思いますけど、チームがバーレーン・メリダからバーレーン・マクラーレンに変わった2020年以降、彼はぜんぜんレースに出してもらっていません。これは今の彼の実力を表すのだといえば、そうだとも言えると思います。しかし、トップチームに所属し、大きな怪我に悩まされているわけでもないのに、ここまで走っていないということに対して、チームの意図があるのではないかとしか思えません。言葉を悪くすれば、”干された”のではないか?とすら思えるくらいの差があります。メリダがチームに対してバイクサプライヤーとしての機能だけになったので、彼をレースに出すことができなくなったことも理由でしょう。それならその時点で契約を終了させるべきですが、そこはメリダによる力か、あるいは何かの忖度が働いたのだと思います。その中で3年間過ごしてきた馮俊凱選手の思いはどんなだったのでしょう?

チーム体制の変化についても、日本国内の自転車メディアはちゃんと書いてくれていませんが、イタリアンチームからインターナショナルなチーム、つまり勝たなけれならないチームへと変化しました。「え?以前は勝たなくても良かったの?」と思われますか?はい、チームの目的は様々です。少なくとも、以前のランプレ・メリダは真剣に勝とうとは思っていなかったでしょうし、そういうチームは他にもあるでしょう。

馮俊凱選手は来季ブリッツェンへ移籍します。

ぼくは2017年のTOJや、よく年以降の熊野で魅せてくれたパワフルな走りをもう一度観たいのです。フルガスの馮俊凱が観たい。そう、彼はTD沖縄も結構得意にしているので、増田成幸選手が抜けたブリッツェンの中では大きな力になるはずだと思います。

と、そんなことを思いつつ、彼に聞いたのは、そのままズバリ。

「あなたが宇都宮に移籍することに驚きましたし、期待しています。なぜブリッツェンへの移籍を決めたんですか?また日本で走ることに対してどう思いますか?そして、この移籍はあなたのキャリアの中でどういう意味を持つんですか?」

それに対する彼の回答はあまりにも率直でした。「まずぼくはもう若くない。33歳なんだ。だから、ぼくのキャリアはもう終わりに近づいている。そして、今回の決断には母国のブランドであり、ずっと自分を支えてくれたメリダが関わっている。日本は台湾からとても近いし、文化に似たところもある。町並みも似ているし、馴染みやすいと思う。それに若い頃から何度も来ているから親しみを感じている。」

彼の表情に変わるような笑顔はなく、ただただ淡々と答えてくれました。レース感のようなものはまだまだかも知れませんが、強い選手ですから、きっと復調するでしょう。勝利という意味でもしばらく遠ざかっていますから、ぼくは日本でのあなたの勝利が観たいんだよと伝えました。

来年のレースには馮俊凱選手の走りを観に、現地へ応援に行きたいと思います。

大きなモチベーション

新城幸也選手は、別府史之選手は引退してしまったあと、日本人で唯一のワールドツアーチームに所属する選手であり、ほんとうの意味でのトップ選手となります。そのことやその意味は、ご本人もいつも考えるでしょうし、そのことばかり聞かれるでしょう。

思うんですが、皆さんは新城幸也選手に何を求めているんでしょうね?メディアの皆さんは?どうなんだろう?といつも考えます。ふつうのスポーツ選手ならリザルトを求められるわけですが、ことサイクルロードレースにおいてはそれだけではないでしょう。それらに対して、ぼくはどうなんだろう?と思っているわけです。日本のロードレース界にとってツール・ド・フランスがもっとも大切で、お金を生み続けます。そこに新城選手がい続けることを皆が望んでいます。

新城幸也がバーレーン・ヴィクトリアスと契約更新 「ツール・ド・フランスにもう一度出たい」
https://www.cyclowired.jp/news/node/379205

この記者会見記事を読んだとき、ぼくは疑問を感じました。もしかして、質問している人はわかっていないのでは?と。今回、新城選手に直接話すことができると思い、そのことを聞いてきました。記事のキャッチがまずおかしいのです。「ツール・ド・フランスにもう一度出たい」、いや、そりゃそうだと思いますけど、本当に彼が真っ先にこれを掲げたのなら、それはどういう意図を含むんだろう?ぼくは想像するものどおりだろうか?と考えました。それに「いろんなレースに出たい」という回答についても、何を意味するのか直接伺いました。

このとき、「どのレースに出たいですか?」と質問されたのだそうです。ああなるほど。質問者は「ツールに出たい」と言わせたい、その意図を感じました?と新城選手に問うと、きっとそうだと思うと言ってくれました。なるほどです。そして、新城幸也選手はこうも言いました。「そりゃあ、出たいですよ笑。ツールに出たくないなんで思う選手はいないでしょう。ここにいるみんなだってそう思っている。それに加えて、今のこのチームは強い。本当強くなったし、レースに行けば誰かしら勝って帰ってくる。だから、走っていて楽しいし、やる気が違う。」

それに対してぼくは「最初はランプレだった。そこでは選手もスタッフにもイタリア人が多くいて、公用語もイタリア語が多くて古いチームみたいだった。ところがマクラーレンが関係し、ロッド・エリングスワースが来て、その後すぐに彼らは去っていったが、チームは引き続き強くなり、いまや完全にトップチームへと成長した。その原因としてキーになったのはどのあたりだと思いますか?」

「全部じゃないですかね?すべてが上手くいっているように思うし、いったんだと思います。だから、このチームで走りたい。前はヴィンチェンツォ・ニーバリがいて、彼を勝たせて、活躍させて、その上でソニー・コルブレッリを成長させることがチームの目的だった。でも今このチームの目標ははっきりしていて、ツールの総合優勝なんですね。だからこそ、ツールに出たいんですよ。」

もう、ここまで聴けて感無量ですよ笑。その他にも話したのですが、時間がなくて尻切れになってしまったので、書くのはこのくらいにしておきます笑

ツールという記号の中で新城幸也選手を語るのではなく、もっと選手個人としての想いや意図のようなものが伝われば、選手自身も話ことが変わるのだろうと思います。