[コラム] これからのバイクセールスについて

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スペシャライズドが2月1日からコンシューマーダイレクトセールスを”米国内で開始するそうです。

https://www.bicycleretailer.com/industry-news/2022/01/27/specialized-add-consumer-direct-sales-feb-1

このニュースがリリースされて以降、世界中の自転車関係者の間の大きな騒ぎになっています。

さようならローカルディーラー

これは、リンク先の本文最後に記載のあるトレックとポンホールディングス(サーベロ、フォーカス、サンタクルズ、キャノンデール、シュインを買収したコングロマリット)がスペシャライズドと取引のある小売店を買収した件を見るに、それにより包囲網を形成し、そこからの逃げ道として小売店の数や規模に頼らないシステムを構成したと考えるべきでしょうか?

あるいは単に、過去数十年に渡ってスペシャライズドの販売に貢献し、周知に努力してきた小売店を不要だと認識しているのでしょうか?

あるいはその両方?

コロナ禍の影響もあり、彼らがこういう策に出ることは、この機をチャンスだと思っているのは間違いなさそうです。とはいえ、最近の歴史を鑑みて今のスペシャライズドがIBD(Individual Bike Dealer ≒ つまりローカルの個人店)に対して友好的だとは思えませんし、米国で開始されるサービスに対して日本が無関係で居られるとは思えません。今のスペシャライズドジャパンは米国本社の傀儡になっていると聞きますしね。

もちろん、トレックやポンも同じことをする可能性はありますが、問題はIBDの価値をどう残すか?だと思います。少なくとも買収されるのはマシ?で、独自資本なのにメーカーなりにがっちり縛り付けられることは肯定できません。なお、メリダは世界のどの国でも直営店舗を作らない方針を維持しています。

海外では「Goodbye IBD」なんてコメントもありますが、実際には多くのユーザーは困るだろうと思います。「恩恵もあるだろう、そうでないとメーカーはそれを選ばないはずだ」と思うかも知れませんが、「買う店の選択肢が増えた」「行きづらい実店舗に行かずに済む」程度でしょう。しかし、それがメリットだとは思えません。結論から言えば、IBDは必要でしょう。

メリダがなぜ直営店舗を作らないのかと言えば、メリダの自転車をブランドで選んで買ってもらうのではなく、実際に触れてもらったり、メリダを愛している人から買ってほしいと望むからです。メリダしか販売できないというルールはありません。その上で我々はメリダを積極的に販売しています。

誰から買うのか

ブランドを愛するユーザーはどちらを選ぶのか。愛を貫くか、ディーラーを守るアクションを起こすのか、見て見ぬふりをするのか。なお、米国で専門のウェブサイトからユーザーが直接購入し、自宅から近いディーラーが自転車を組み立て、顧客がそれを受け取りに来る場合、ディーラーの利益は通常の半分程度になるようです。メーカーからユーザーへの直接配送も選択できるようで、その場合のディーラーの利益は言うまでもなくゼロです。

我々世代はスペシャライズドを愛していましたよ、かつては。これは当然で、スペシャ無しに我々世代の日本での自転車あるいはMTBカルチャーはあり得ませんでした。それくらい愛していた人が次々離反してしまった現実があるのに、それは多くのメディアや関係者によって隠されていたし、見て見ぬふりをされていました。さて、今回はどうでしょうか?

やはり一度愛したブランドをもう一度愛したい、その気持ちはあるわけです。私だけではなく。しかし、現実を受け入れないといけないので、関わりたいと思うかどうかには大きな決断が必要でしょう。「そんな大袈裟な」「乗るだけで関係ない」と思うかどうかは一人一人の考え次第だと思います。

「便利だしいいじゃん」と思っても、それは買う瞬間だけの話であって、いくつかもたらされるメリットをデメリットが覆い隠すことでしょう。

ディーラーの中にも人間はいるわけで、それを道具として扱う感じからはアメリカらしい帝国主義を感じます。いやしかし、我々が憧れていたスペシャライズドはどこへ行ったのか。悲しくなりました。「時代の流れ」というコメントはほぼ無ですね。「しかたない」「かわいそう」も何も見てないよと言うのと同義でしょう。私はユーザー一人一人のアクションに期待します。

アフターケア問題

「アフターケアを望むから実店舗で買う」という声もありますし、とは言え「その場の安さや便利さに流されてしまう」という気持ちもあるでしょう。とても良くわかります。そして、「何を買うかによって使い分けている」ということもあると思います。

では、あなたが自転車を買う場合はどうでしょうか。

例えば、”自分が普通だと思っている使い方”で自転車が壊れてしまったとします。そして、それは致命的なもので、修理不可能で、自転車そのものを失ってしまうのと同等であるでしましょう。ユーザーは大変なショックを感じますし、自分を責めることもあるでしょうし、メーカーやディーラーに対しての怒りや不信感を持つこともあるでしょう。そしてディーラーに持ち込み、起きた事象の詳細を説明しに行くはずです。ここまで言えば自明でしょうけれど、ダイレクトセールスで購入した場合にはこういうケースでの対応に不安があります。一般的な認識での”通販で買うアフターに関わる不安”はこれでしょう。日本国内で全く店舗を介さないのはCANYONくらいです。

今回のスペシャライズドのケース、つまりダイレクトで購入して店舗で受取るシステムはメリダにもあります。じゃあ同じなのかという、私は違いがあると思います。それはなにかと言えば、店舗に対する愛情です。後者の場合、基本的には実店舗を守る、あるいはその繁栄を維持するシステムの中で、不便を被っているユーザーのために穴埋めをするシステムですが、前者では異なるように見えます。

おなしな考えのように思うかも知れませんが、これは事実として、代理店とディーラーが良い関係性を保てていることと、そういうディーラーから自転車を買うことはとても大事だと思っています。「そんなことまで気にしないといけないのか」と思うのかも知れませんが、「店からではなく人から買う」という時点でそういうことも含まれると思いますし、考えたことがない人は少ないと思います。

つまり、メリダがなぜ世界のどの国でも直営店舗を作らないかと言えば、ディーラーを縛り付けないためであり、メーカーと各代理店とディーラーがいい関係を築き続ける必要があり、それがユーザーにとって大切だと考えているからです。それが「メリダファミリー」に込められた真意であり、愛情です。いい関係性からは良いコミュニケーションが生じ、良いフィードバックをメーカーは得ることができ、独りよがりではない製品を開発することもできます。

代理店に愛されていないディーラーで購入することで何が生まれるかと言えば、例えばさきほどのような保証が必要なケースについてです。代理店に愛されないのは販売額が少ないディーラーかも知れませんが、それ以上なのは無理を言うディーラーだったり、安売りをするディーラーです。代理店側に立てば自明です。ゆえ、同じことを代理店に伝えてもそこにいるのは人間なので、相手が異なれば異なる気持ちになり、それが対応に反映されるケースはあるということです。そんな事あってはいけないと思うかも知れませんし、「それならAIによって機械化すべきでそれが公平だ!」と思うのかも知れませんね。しかし、人間とはそういうもので、それが人から買うということで、メリットもデメリットも含めた話だと思います。

これはクレームあるあるとして、どう考えても保証対象外の内容をぶっこむディーラーと、ぶっこまれた経験があるので厳格にルール適用し始める代理店の構図があります。コミュニケーションの問題だったり、ビジネスモラルに問題があったり、ユーザーに対して真摯であることを履き違えたケースも見たことがあります。クレームの言い方も大変大切ですし、そこから事実を引き出す会話をする能力がディーラーには大事だと思います。歴史は一つではないように、”両側から見た歴史≒事実”を代理店に伝えて判断してもらうことが大事だと思っていますし、私はそうしています。

私の印象としては、ディーラーと代理店がいい関係にないケースがあって、その上で保証というシステムを機能させることができないケースもあるかと思いますし、そういうケースもあったことを知っています。誰のためので言えば保証やアフターケアはユーザーの為のシステムですよね。日本は欧米を契約でカッチリしてと言いますけど、いやいやめっちゃコネですし、階級ですし、コミュニケーション重視です。それを日本では見誤ってしまい、”ルール”を厳格に採用することで正義を発揮する”のも見かけますし、その決断に関する損得勘定も考えられなくなっているようにも見えます。コロナ禍の件でもそれはとても感じますよね。

人から買うべきである

その意味では通販で自転車を買うのって最悪だと気づいてほしいと思います。保険をダイレクトに契約することの問題を意識するかどうかと同じで、保険こそアフターケアしかないサービスです。保証って保険ですし、保険はアフターケアにお金を払っているはずです。それであれば、自転車を買う場合には何を大事にし、どういう経路で買うか考えてみるべきです。

「ネットで買っても実店舗で受け取れば安心」と思うかも知れませんが、私はこれを否定します。ユーザーがコミットメントした目の前にいる相手と商品交換、つまり商品と貨幣の交換を行うことが大事なのです。それがユーザー自身の大きなメリットになります。悪い例えでコンビニ化と言われます。コンビニの店員さんや店舗オーナーさんは店舗やそこにいる人に対して”コミットメントされた”と思っているでしょうか?また、買う時にそれを表明しているでしょうか?「ありがとう」「おいしかった」「またくるね」など様々な方法がありますが、それは僅かな癒やしでしかなく、根本的にはただのシステムになっていることに苛まれます。ですから、本部に対して度々戦いを挑みますし、問題が表面化もするでしょう。

今回のケースでも引き続きディーラーに来店し、自転車を購入することはできますから、ぜひそうしてほしいと思いますし、そうしてもらった場合にメリットを享受していただきたいと思っています。スペシャライズドを愛している皆さんは「私はあなたから買いたいんだ」とディーラーにいる人間に対してのコミットメントを考え、それを表明して欲しいと思いますし、他のメーカーに関わる人やユーザーに対しても、自転車でのコンシューマーダイレクトセールスについて考えてほしいと思います。