わかりやすさ

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わかりやすさは誤解を生む

ビギナーにわかりやすい説明というのはあらゆるジャンルで誤解の塊ですね。

ロードバイクには
 エアロロード=平坦用
 ヒルクライム用
の2種類がある。

これはウソではありませんが、理解のさせ方が間違ってます。

ヒルクライム向けのロードバイクと言いますけど、そもそも選手のフィジカルありきです。それはフィジカルがありさえすれば勝てるという意味ではなく、しかしそれありきなのは間違いなく、とはいえ何でも良いという意味ではないです。

これは他のスポーツでも同じかと思います。ナイキのヴェイパーを履けば勝てるわけではなく、それを使えた(活かした)人が相対的に他を上回ったということです。登りに必要な走り方というのはあって、それに適した特性を付与したバイクということですよ。

登りに向いた人が好む合理的なバイクのスタイルということであって、これに”乗ると登れます”ということではないと思います(正直接客)

乗ると速くなる自転車があればいいですけど、軽くしても速くはなりません。速く走る人が軽い自転車に乗っていただけということですし。登りでは振りの軽さと反応性が鍵になります。その上で軽いことです。

むしろ、乗り手の特性と相反する場合にはフィジカルを活かせませんし、邪魔をするところもあると思います。ゆえ、リズムの速い走りを可能にするフィジカルと若さがないと、速いテンポの走りで出力を維持することが難しいと思います。年齢を重ねるとだんだんケイデンスは上がらなくなります。筋力の衰えというより、可動範囲の狭小や代謝の問題はあると思います。

間違ったものを選ぶとどうなるか

間違ったものを選ぶと損をします。目的に対してミスマッチした道具を手に入れることになります。しかし、このあとで書きますが、”知らないまま”であれば、間違ったことにも気づかないので、幸せとも言えるでしょうか。しかし、自転車について言えば、スキルの上達やサイクリングの楽しさに対して、少々レールを間違えてしまったりすることは少なくないようです。それは自転車のサイズだけではなく、車種選びやセッティングについてなど総合的なものです。

知らないことまで伝える

「Aはありますか」
「Aですね。ありますよ。」
「〇〇だから、Aにしようと思います。いいですよね」
「そうですね、Aはいいです」
という接客もあるでしょう。

しかし、
 「Aには△△のような良いところもありますが、Bもあります。BにはBの良さがあります。どちらにしますか?」
という接客もあります。

自分である程度決めてしまっている人への案内のほうが、まるで決まっていない人への案内よりも難しいものなのです。決まっているから売るにはカンタンに思えますし、時間も短く済みそうですが、そのお客さん自身が知っている情報の中で選択したものなので、知らないことは知らないままですし、それを加味して選ぶ場合には別の結論にもなり得ます。しかし、店員は売りたいので、ほぼお客さんが自分で考えて決めかけた選択肢にNOを突きつけることはしないでしょう。店にとっては優秀な販売員でも、お客さんの近未来にとってはそうではない可能性もあります。

当店でよくあるのは

「Eバイクは全く頭に無かったです。あー、意外だなー。でも、そうですよねー。あー、私がやりたい事はそっちな気がするなー。」

というパターン。いずれの結論出すにしても、AプランとBプランの両方を検討したことに大きな意味があるはずです。迷わせるので良くないように思えます。

得てしてそういうことは”余計なお世話”だと取られかねませんし、迷わせてしまうと”買うまでの時間”は長くなりますし、”買うのを止めてしまう”可能性もありますので、回転を重視する接客ではご法度だろうと思いますし、一般的「模範的な?な販売員はやろうとはしないでしょう笑

スポーツ中継の実況解説でもビギナー向けというのは表現が表面的で、本質に至らない感じです。簡易的にすると何も残らないし伝わらないと思いますし、そのスポーツがまた本質的な魅力は伝わらないでしょう。民放地上波でのスポーツ中継はまさにですが、自転車レースのそれでもJスポーツでも去年まであったDAZNでもほぼ雑談でしかなく、いつまでも用語説明やルール説明ばかりで面白くなく、深みもありません。以前は市川政敏さんが喋るジロや三船雅彦さんが喋るロンドやリエージュやアルデンヌは楽しめました。中継が始まるのが楽しみでしたし、何度も繰り返し観ました。

わかりやすくするということは、伝えるべきことを削ぎ落とすことです。それは知らない人にこそやってはいけないと思います。リテラシーの低い人を誘き寄せる策がわかりやすさです。

説明に時間をかけることはその本質を説明するのに必要で、それをすることは誠意でもあるはずですが、急いては事を仕損じると理解せずどうしても焦ってしまいがちで、その利害が一致すると「わかりやすさ」に落とし込まれるんでしょうね。それが「買わされた」の正体でしょう。

私はお客さん自身がしっかり納得してくれるまで時間を掛けて説明をします。売り急がず、2−3年先を見据えた上で、今知らない情報もお知らせし、最適で合理的な選択肢を提案します。ただ自転車を売るだけではなく、自転車遊びのコンサルタントだと思います。