あたらしいMERIDA SILEXに乗ってきた話 後編

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SILEX 4000 に乗った感想

SILEX 400 に乗った感想

設計のポイントは?

何といってもフレームジオメトリの優秀さです。初代を設計する際にも最大のポイントだった長めのフロントセンター及びトップチューブ、路面を捉えて話さないフロントフォーク、フレキシブルに対応しつつ軽快さを失わないバックトライアングル、これらはすべてMTBからフィードバックされた特徴です。だから、まるでMTBで走っているかのような安定感を得ることができます。

一般的なグラベルロードバイクやグラベルレースバイクとMTBで、オフロードを走る場合の違いはなにかと言えば、それは前者は怖さを感じやすく、後者にはそれが起きにくいことです。

タイヤの太さだけでも、サスペンションの有無でもなく、これこそフレームジオメトリのもたらすその自転車の基盤になる性能です。オフロードでは乾いた路面と濡れた路面が交互に現れたり、斜めに傾いていたり、あるいは小石や岩や落ち葉の上を走ることも日常の中にあります。それ加えて段差や上下に波打つ場合もあったりと、オフロードでは気が抜けません(だから楽しい)。

そのような状況で注意深く走っていても、うっかりミスをしてしまう場合があります。ちょっとばかりオーバースピードだったり、走るラインを間違えたり、ただしいラインからはみ出してしまい次のコーナーでの破綻を予測できる場合もあります。かんたんに言えば、ヒヤッとする瞬間です。そのラインをうっかり越えてしまえば、転倒などのアクシデントが待っています。

MTBではそれらが起きにくく感じます。安心して走ることができれば、自分の走りに集中したり、それを追求しやすくなりますし、その上で景色も楽しむことができるかも知れません。一般的なグラベルロードバイクや特にグラベルレーサーバイクの場合、そうした余裕をもつことができません。ロードバイクでのレーサーバイクと同じですが、オフロードにおいてはより顕著に表れます。競技に特化したロードレーサーを自分なりに乗ることはできても、オフロードにおいてのグラベルロードバイクで同じことができるわけではないので、同じように考えないほうが良いと思います。。

これはすでにいくつかの動画やテクストにおいて出てきている「グラベルロードを買ってみたけれど、MTBに乗り換えた」というパターンで証明されていますし、グラベルロードバイクに中途半端さを感じる場合には、そのバイクが”オンロードもオフロードもいずれを走っても性能が低いこと”に起因していると思います。だからといって、グラベルロードバイクがすべてそうであるというのは間違いです。それはグラベルロードバイクではMTBのように機種ごとの性能の違いが大きいからであって、ロードバイクのように硬さが違う程度の差ではないからです。

オフロードをどの程度イージーに、楽しく、余裕を持って楽しめるかは、「どのバイクを選ぶか」がかなりのファクターを占めます。MTBerに聞いてみましょう。ロードとの違いは?と。それは、どのフレームとサスペンションフォークを使うかによって、トレイルを楽しめるかどうかが大きく左右され、また制限もされると、ほぼすべてのMTBerが答えると思います。ロードバイクのように、実際にどれを買っても同じところを走ることができ、同じくらい楽しめるのとは、まったく異なります。

メリダはMTBを知っているので、そのことがわかっていました。

ですから、2018年にリリースした初代SILEXのジオメトリを身長に考える必要がありましたし、それを「29インチMTB + ロードバイク」というユニークな結果を導き出すに至りましたが、そのただしさが証明されたのではないでしょうか。

何ができる?

何でもできます。これは本当のことです。ですが、ジャンルがミスマッチした機材で何かをするのとは、まったく別の意味です。前者は無理をせず楽しめるのに対した、後者は単に無理やりやっているだけでしょう。

1つずつ書いていきます。

・グラベルライド
 SILEXはそのために設計されていますし、これまで申し上げた通りです。ただ繰り返しになりますが、一般的なグラベルロードバイクやグラベルレースバイクとSILEXとの最大の違いは、SILEXの方が明確に安定した走りができるので、怖くないし、楽しめる人が多くなるということです。グラベルといってもいろいろありますが、砂利からガレ場まで幅広く楽しむことが可能です。

・オンロードツーリング
 今回は、標準でついているのと同じマキシスのデトネイター32Cを履かせたホイールへの交換をし、試乗してみました。ぼくは初代SILEXでもオンロードツーリングは可能であるとの評価をしていますが、今回の新しいSILEXでは、オンロードも走れるというより、ふつうにロードバイクとして違和感なく利用できるという評価に変化しました。もちろん、レースバイクではありませんし、軽さもロードバイクのそれとは異なります。しかし、十分楽しめますし、グラベルロードバイクにあるネガティブなダルさはありません。標準で利用する45Cのグラベルタイヤに加え、30Cあるいは32C程度のタイヤを履かせた舗装路用ホイールを用意しておけば両方を1台で楽しめると思います。28Cや30Cが使えれば、いわゆるロングライドは可能だということになります。100キロ超はもちろん、200キロを越えるようなロングライドも可能です。

・シングルトラック
 シングルトラックとは、MTBによく出てくる環境で、道幅が自転車一台分しかないような林間のけもの道のことです。容易に進入できるような道はなく、政治的にも正しくないケースがありますので、推奨することはありませんが、そのような環境下であっても楽しむことができる余裕が生まれると思います。

・シクロクロス
 シクロクロスはレースであって、専用レースバイクとそれ以外は大きく異なります。それはまったくその通りです。SILEXはそもそもレースバイクでもなければ、シクロクロスバイクでもありませんが、試乗して感じたことは、SILEXは速度がオフロードで上がった場合でもたいへん安定して走行することが可能だということです。タイヤ幅によるメリットもあるでしょうが、根本的にはフレームジオメトリに起因する効果なので、32Cタイヤでも同様に安定した走行は可能だと思います。シクロクロスにおいて、技術的にあまり上手とは言えなかったぼくのような人にとって、スリッピーな、あるいは荒れた路面で安定してまっすぐに速度をできるだけ落とさず走ることができるバイクは、リザルトを良い内容にする可能性を含むものです。ストップアンドゴーを多用するコースであっても、キャンバーや下りで転びやすいような場合、SILEXに乗るメリットはあると思います。シクロクロスで使用することで、レース後に自転車のメンテナンスをすることが必須になってしまうものの、あまり多くのレースに出場するつもりではないなら、わざわざ数少ない選択肢の中から専用バイクを用意するよりも、SILEX1台で済ませてしまうのはメリットの有ることだと思います。むしろ、シクロクロスレースバイクではできないオンロードでのロードバイクらしい走りや、もっと激しいガレた路面も楽しめるようになります。

誰が楽しめる?

レースバイクでレースをしないすべての人が、いずれの場所でも楽しく、ラクに、余裕を持って走りを楽しめると思います。ベテランライダーは今まで走ることがなかった環境を楽しみ、ビギナーはレースバイクより安心して、自転車の乗り方を楽しく学ぶことができるでしょう。

どこで楽しめる?

もちろん、住む環境によってはできることとできないことはあるでしょう。SILEXに乗る最大のメリットの1つ、それはその日その時に走っている場所において、その周辺にある脇道や思いついたルートをすぐに楽しめるということでしょう。「グラベルを走ることが少ないからグラベルロードを買わない」という意見は多く聞きます。その気持はわかります。それが一般的なグラベルロードバイクやグラベルレースバイクなら、その意見に同意するところですが、SILEXの場合には舗装路ではロードバイクとして走れてしまうので、ずっとロードバイクとして走っているが、思いついたときにはすぐにグラベルへ突入でき、そこでもまったく無理がないということが可能です。なにやら、とんでもないロードバイクだと思いませんか?

どう楽しむ?

ロードバイクで走りを楽しむ場合、レースのように速さと順位を競うのも1つの楽しみ方ですが、もう1つの方法は自分の走りを追求することでしょう。効率の良いラインを見つけチャレンジしたり、あるいは大胆でアクションのある走りを楽しんだりもできます。SILEXはグラベル世界選手権で優勝できるほどのバイクでありながら、後者に当たる楽しみ方まで幅広くカバーできてしまいます。

何ができない?

あえて指摘するなら、ロードレース、クリテリウム、ヒルクライムレースでしょう。

アルミとカーボンのどちらを選ぶ?

予算が確保できるならばカーボンをおすすめします。これは当然でしょう。あえてアルミを選ぶ理由があるとすれば、ペダリングに対してやや敏感に反応することを乗り手が好む場合です。フロントフォークもジオメトリもまったく同じであるため、ハンドリングの主な部分はほとんど違いはありません。SILEXは、ジオメトリによって全後輪の真ん中にいることを乗り手は維持しやすいのですが、それも変わりなく提供されると感じました。

その他違う部分を挙げますと、BB周辺のペダリングに対するバネ感と後ろ三角の路面追従性だと思いました。後輪がスライドした場合、カーボンフレームのモデルの方が滑り出しが緩やかでわかりやすく感じました。アルミフレームでも一気に滑るようなことはなく、アルミフレームとしてはとても良くできており、完成度の高さは感じました。

ロードバイクをすでに持っている場合にはグラベルバイクを買い足すことを考えがちですが、レースライド以外の舗装路でのロードバイクライドは違和感なく可能なので、1台ですべてをカバーしてしまうことも可能だと思います。ロードバイクとシクロクロスバイクの両方をすでに持っている場合でも、SILEX1台で何でもやってしまうことも可能だと思います。最初の方に書いた通り、シクロクロスレースバイクでオンロードツーリングをしたりするのと異なり、無理をして行うというものではありません。信じられないと思いますが、このバイクは本当によく考えられていると思いました。

ホイールをもう一本用意する場合、あるいは10Sから11Sあるいは12Sへのアップグレードを行いたい場合には、アルミフレームの完成車ベースの方が、予算建てし易いでしょう。ただ前述したように、サブバイクではなく、何でもやってしまうメインバイクとして考えるのであれば、カーボンモデルを選択するほうが、後々にまで満足度を維持することができると思います。あるいは、グラベルを思う存分楽しむ場合、気兼ねせずにアルミフレームで楽しむという人もいると思います。

いずれにしても、あたらしいSILEXはともに優秀なフレームです。

総合評価

10年以上メリダを見続けているぼくからは、大変メリダらしいバイクだと感じました。なぜなら、総合力を高めるという真っ当な目標を掲げ、それをクリアしたバイクを地味にリリースしてきたからです。メリダは総合メーカーですから、多種多様なロードバイクやMTBを開発する際に生まれたアイデアやノウハウが、次の製品へと投入されるのを感じます。これは小規模メーカーではみられないことでしょう。これまでとの違いについていえば、フレームのデザインやスタイリングについては、かなりかっこよく仕上がっていますが、そのコンセプトや中身やあまりギミックのようなものがない無難な製品づくりは、まさにメリダの自転車であると感じました。

性能については、とにかく色々なことをいずれについても違和感なくできるということで、なかなかすごいロードバイクだと感じました。もちろん、オンロードを主体的に走るならSCULTURA ENDURANCEの方が気持ちよさという意味では上ですが、それでもSILEXが多くの状況で発揮するハイレベルな性能は、他社と比較しても他にはないバイクであると強く感じました。

なにより、SILEXではグラベルに入った瞬間に、”よくある怖い感じ”がまったくなく、不安なく試乗を楽しむことができたことは大変印象に残りました。あまりに楽しかったので、試乗時間が始まってから、誰も走る人がいなくなるまでずっと乗っていましたしw、試乗会場からMERIDA X BASEに戻ってからもまだ乗っていたのはぼくだけでしたw

ぜひ、MERIDA X BASEを訪れて、試乗してみてください。
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