原点の良さ

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1990年前後、スキーをやったり販売していたときです。旧来のサンドイッチ構造ではなく、”キャップスキー”というものが出てきました。”新世代のスキー”とも言われたそのムーブメントは一気に広まりましたが、最初はみんな懐疑的でした。その後、メディアや選手のレビューを読んで、「良いらしい」と興味を持ち、他のメーカーでも盛んに採用されました。その筆頭にあったメーカーはサロモンでした。自転車でいうと、ちょっとマビック的なイメージがあります。新しいことをシンプルに実現するイメージです。実際、その後は両ブランドともアメアスポーツの傘下に入りましたし、そんな動きもまた納得という感じでした。

もともと、スキーはただの板、つまり単板だったのですが、複数素材を張り合わせるサンドイッチ構造になり、80年代中盤から登場したのがキャップスキーでした。製造工程上の理由であり、軽く安く作れるからです。

ところが、そのキャップスキーの評価は途中で覆ります。エンジニアリングとマーケティングとエフィシェンシーの面では上手くいったように見えたのですが、”使った感触がイマイチだった”のです。外から観た同じ大きさと長さの弧を描くターンでも、使っている人間が道具から感じることは異なります。その部分において、キャップスキーは自然ではなかったというか、使いにくさがありました。人間の感覚から少し遠い感じが私もしました。ゆえ、”気合の入ったいくつかのメーカー”はキャップを採用しませんでした。

また、選手からの繊細なフィードバックを製品に細かく反映させることはサンドイッチのほうが得意でした。本当に初期の頃のキャップスキーは中身がいかめしのようにウレタンフォームで作られていたこともあり、それはひどいものでした。一見効率的ではありませんが、サンドイッチ構造はコストさえかければ設計の自由度が高く、精度も確保でき、開発サイクルも短期間化することができました。

私は当時も、ミズノ、フィッシャー、ブリザードやフォルクルのサンドイッチ板を好んでいたのですが、今やサンドイッチ構造こそスキーだ!と言われることになり、原点に戻っています。むしろ、キャップスキーが出始めの頃、”もう旧いし、高い”と言われていたようなオガサカが喜ばれ、本来の味わいを理解する人が時代を経て増えたように思います。

特にサンドイッチ構造のスキーが持つしっとりとした感触は、ターンをスムーズかつ快適に行うことが出来、レジャーでも競技でも気持ちよく使うことが出来ます。

キャップスキーは表面にあるキャップで覆うため、ねじれに強く、また構造的な部分に強度を預けているので軽量にできます。しかしながら、サンドイッチでは強度や味付けを素材とその量と質に依存するため、ある程度の重量がないと強度が保てません。ゆえ、軽量化は難しいのです。ただ、スキーというスポーツではそこまで軽量性を重視されないので、サンドイッチが復権したのだろうと思います。


この違いや変遷はやや自転車にも似ているところがあります。

ただ、自転車の競技においては軽量性が大事になるためにカーボンによるキャップ構造は優位性を発揮しています。しかし、「そこまで自分は登るんだろうか?」「どのくらいの登りから重量を気にすべきだろうか?」と再考してみても良いのではないかと思います。それは競技なのだろうか?早く登ることをどこまで必要とするんだろう?また、必ずしもすべての人にとって軽さ=坂での速さにならないことも知ってほしいと思います。

個人的には7%以下の斜度ではバイクの重量は重要ではないと思っています。特に平坦では全く関係ないと思います。スピードに乗せるまでに関しても、重量より、漕ぎの軽さより、粘りが大事です。それが”掛かり”です。また、その掛かり次第では重たくても脚が続く自転車がありますし、その逆もあります。

私はスチール原理主義者ではありませんが、鉄という素材の魅力やその理由をスキーに当てはめても考えています。スチールで大事なのは”焼き鈍し”なのだそうです。本来は設計された温度での焼入れをすべきなのに、それを越えて熱を入れて焼き鈍してしまうことは、素材メーカーからすれば言語道断なことでしょう。しかし、硬い鉄という素材を人間が上手に扱えるレベルまで焼き鈍すことこそ、乗り手に合わせた造り手のテクニックであり、自転車の味付けなのです。

ゆえ、「硬いものを作るだけならかんたん」だとも教わりました。なるほど、それは素材が変わっても同じですよね。


先日送られてきました東洋フレームの最新カタログを見ていますと、なにか自分だけではなく、自転車を愛する多くの人に味わってほしいと思うようになりました。特に上位モデルではケーブルやホースがフレーム内部にしまわれ、考えうる限りのマッシヴでアグレッシブさをもたせ、全ての完璧にインテグレートしたかのように見えますが、それらはれっきとしたレーシングマシンです。果たして、そのような最新レーサーが、勝つために生まれた道具が、多くの人に愛用される感覚とシンクロするのかどうか?と疑問に思ってきたからです。

最近はスチールフレームも流行っていますが、多くは強すぎるか弱すぎるものが多いように思います。見た目の美しさや造形も大事であり、魅力ですが、”乗ること”を最大に考えたスチールフレームメーカーは東洋フレームだと思います。

いつも自転車で走っていると、アスファルトとタイヤを通して対話している感覚になります。しかし、最近の自転車でのそれは薄っぺらくなっている気がします。それは素材ゆえというより、構造がゆえでは?と思ったのでこの文章を書いてみました。素材が故の構造であり、その優位性と限界点や特性について考えさせられます。

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