メリダへの愛

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なんかもうとんでもないタイトルになってますけど、私にはメリダへの愛情というものがあります。最初はありませんでしたが、次第に醸成されました。ただ速いから、売れるから、カッコイイから売っているのではなく、過去数年に渡って見てきたメリダという企業の人格に愛情を感じるからです。

正直に言いますけど、ここまでメリダを愛しているお店は多くないと思います。

今回はある記事をきっかけに、その翻訳をしていたら自分の知ることも多く、それをまとめて簡単に書いておくことしました。


ヨーロッパでのメリダは以前より受け入れられてきたとは言え、まだ深く知られているわけではありません。以前にも書いたように、北米にはスペシャライズドがある関係上、卸しておらず、さらに知名度は下がります。

極東という言葉からも、ヨーロッパ人がアジアに対して”ほぼ興味がない”のは過去から現在まで一貫しており、特にドイツ人にとっての極東は特に興味がない対象だと私は思っています。そのドイツ人も段々変わってきていて、メリダという台湾の企業の一部として動いているのですから、時代を感じます。

初代アイク・ツェンがメリダを創業しました。メリダは美利達と書き、美しさ、快適さ、巧みさ(fluid and mobileは日本語にしにくい)という意味があります。

現在はアイクの息子のマイケル・ツェンが社長です。日本人で彼にあった人は多くありませんが、7年ほど前、台湾でお会いしたことがあります。副社長兼スポークスマンのウィリアム・ジェンが基本的には全面に立ちますので、私も何度もお会いしています。ピナレロで言えば、ファウスト・ピナレロのようなものでしょうか?彼は社長ではないので。

現在、メリダの従業員数は約4000人。台中の員林にある本社工場の他、中国に3つの工場があります。台湾では1300人が働き、年間100万台の自転車を生産しています。メリダはロードバイクが好きなサイクリストがこよなく愛する”高級ブランド”とは違い、ロードバイク以外にグラベル、シティバイク、マウンテンバイクやキッズバイクまで生産する大規模メーカーです。世界で自社生産を行いつつ、この規模を誇るのはメリダとジャイアントのたった2社だけとなります。今ではこのラインナップにEバイクが加わり、売上全体の30%をEバイクが占めています。

他社は生産をアウトソースするのが通常です。その場合、アウトソース先のメーカーに依存しますので、生産バッチの一貫性が失われ、生産ロットの待ち時間が長期化したり、管理が難しくなります。そういったメーカーがビジネスパートナーや顧客に対して「これだけ買ってくれ」とノルマを課すのはそのような側面もあります。

生産と製造がアジアですが、欧州市場向けのバイクを含む開発センターはドイツのシュツットガルト郊外にあります。異なるタイムゾーンを跨いで、それぞれのチームは連携し、緊密かつ協力的な関係を維持し、機能的に稼働しています。それがメリダの鍵です。


ちなみに台中は自転車生の世界の中心地です。メリダの本社のすぐ近くにはMAXXISもあり、FSAもあり、ほぼ全ての自転車メーカーは台中に拠点をおいています。ここなしに、自転車は回っていきません。


メリダはドイツ製なのか、台湾製なのか?という議論もあります。例えば、FOSUCやCUBEは台湾で生産を行い、ドイツで開発を行っています。販売はドイツが中心です。彼らはドイツのバイクだと言います。では、メリダはどうなのでしょう?あくまでもメリダは台湾の自転車です。

ドイツの開発チームはe.ONE-SIXTY CARBONの開発に際しても、新しいバッテリーカバー、ヘッドチューブ形状、特徴的なサーモゲートなど新しいアイデアを提案し、設計行い、台湾のチームによって検証をしたあと、プロトタイプをドイツへ送って確認。それを繰り返したあと、適切な製造プロセスとコスト管理、品質基準を満たした上で大量に生産されます。

つまり、ドイツチームのやりたい放題ではありません。むしろ、ドイツの開発チームで製品管理責任者を務めるレイナルド・イラガンは「時にはイライラする事があります。なぜなら、多くの場合、技術的に可能な素晴らしいアイデアは台湾にいる同僚の厳しい基準を満たさないことが多いからです。また競合他社が素晴らしいアイデアを含めた製品を持ち、それが称賛されるのを見ることもありますが、私達が設定した厳しい基準のために、同樣のものを作ることが出来ないからです。」と言っています。これはメリダの自転車を知ることになったサイクリストには実感のあるところではあるでしょう。

これは何度も言っていますし、接客の中では毎回言っていますが、これこそメリダの良いところであり悪いところでもあります。確実に、堅実に、素晴らしい製品を作ることはメリダという名前からそのとおりです。

しかしながら、お互いは対極にあり、革新という矛と安定という盾で戦っているわけではありません。メリダは素晴らしく、美しく、安定した製品として、世界のトップ5ブランドに必ず入ることを目標とし、開発・生産を行っています。


一般的に極東での生産拠点には過酷な労働条件や搾取的なスタイルを思い浮かべがちで、そこで生産される製品に対して良好なイメージを持つ人は多くないかも知れません。しかし、メリダでは全く異なる環境に遭遇します。職場の雰囲気はたとえ組立ラインであっても前向きで、調和があり、適切なメンタリティを維持しています。特に”ジャストインタイム生産”には高い従業員の能力、柔軟性、責任などを複雑に連携させ管理するというプロセスが必要です。

メリダにとって従業員とのフラットな関係の構築は大切で、それは従業員だけではなく、ビジネスパートナーにも、また顧客に対してもお互いの信頼関係を構築するが大切だと思っており、それが”メリダファミリー”という言葉にも表れています。

例えば、90年代の時点ですでにメリダが自社生産のフレーム、コントロールユニット、バッテリー、トルクセンサーまで持っており、開発を行っていたのですが、その当時はそれがどこへ向かうのかわかっていませんでした。その当時の市場は小さすぎましたし、充分な生産量にも至らず、マーケティングも流通もまだまだだったからです。「しかし、常に開拓者としての可能性を信じており、無駄なリソースに対する公開はありません」とウィリアムは言います。

しかしながら、”Go”となってからはたったの6ヶ月でした。6ヶ月でEバイクの生産拠点を立ち上げ、現在は1日約900台のEバイクを生産しており、独自の規制とソフトウェア要件に向けて約40の国に対して運用を行っています。Eバイクのシニアプロダクトマネージャーのベンジャミン・ダイマール(一昨年来日)は当時Eバイクのプロダクトマネージャーとして雇われたのですが、生産していませんでした。本社裏にある緑の野原に案内され、半年後にはここでEバイクバイクを生産すると伝えられ、そのとおりに実行されたことで信頼を得たそうです。

これらの信頼は本社従業員にも共有されており、全体の2割が20年以上も勤務しているという実績を持っています。


これらは私が最初に台湾を訪問した際にも、肌身で実感したことであり、まさに日本のユーザーに好まれる製品だろうと理解しています。大変長期的な視野で企業運営をしており、非常に安定し、確実な製品を作るという企業なのだと理解を深めました。

もちろん、”マニアックなロード乗り”のような人たちには、レイナルドが言うような”キレキレの製品”が好まれますが、いくつかの理由から実際には現実的ではない場合もあります。ごく一部のニッチな層に向けては有力であっても、一般サイクリストにとっては無用の長物であり、コストの過大な製品だとも言えます。特にそれはEバイク市場で大きな影響を及ぼすのではないかと思います。

メリダはトヨタを基準にした生産とそのプロセスから学びを得て、その”カイゼン”の原則を採用し、自分たちの生産能力に大きな自信を持っています。

”ヨーロッパのプロチームに採用され”というキャッチから、”レース機材”をカリカリに作ることこそ企業ポリシーであると安易に理解させる日本の主要メディアではありますが、現実はそうではありません。それぞれの企業が目指す形は異なります。


この様に台湾のメーカーにとって、従業員、ビジネスパートナー、チーム、顧客などとの相互的・長期的な協力関係は非常に需要です。メリダは長く愛されるブランドであるために、彼らの掲げた目標においての優れたバイクを開発し、生産し、販売しています。

人それぞれには好みがありますが、メリダはそのような企業でありブランドであるとご理解ください。

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