ただいま! 〜メリダ工場内部に潜入!〜

この記事は約 11 分くらいで読めます

DSC_2379

DSC_2379

ただいま!帰ってきました。

国内でメリダを販売するにあたって、ミヤタサイクル以前のディストリビュータがほとんど(いや、全く)仕事をしていなかったが為に、現在日本国内におけるメリダに関しての情報は少なく、また「メリダとはどんなメーカーなのか」という自転車を買う時に最も大事なポイントに関しても情報がpoorな状態になっているので、今回の台湾出張ではメリダ本社兼工場の視察をメインコンテンツとしてミヤタサイクルさんに企画して頂きました。

今回は今まで詳しく言えなかったこと、言わなかったことを含めて、全部を詳しく書き綴りたいと思います。長くなりますが、何度かじっくり読んで頂き、今後のバイクチョイスにメリダという名前を頭の片隅にでも良いので気にして頂こうという魂胆です(笑)

さて、はじめに。

「台湾の自転車はすごい」

この言葉だけがただただ流れ出ているようですが、その多くはGIANTの事を指すようです。”世界一の自転車メーカー”というキャッチも自転車以外のメディアからここ最近多く聞くのは、それなりの戦略の元に広めていらっしゃるのだと思います。しかし、それはあくまで”生産数”がということであって、”ミドル〜ハイエンドユーザーへの説得力”には欠ける印象です。

その為でしょうか、いまだに”台湾ブランド”とネガティブな意味を含んだ言い方をされる方が多いのでは無いでしょうか。

恐らくそれは日本に輸入された多くのメリダ生産では無い台湾製自転車が作った歴史でもあり、中国製との混同でもあり、いい加減なメーカーによって生産をされたパーツのせいでもあると私は印象を持っています。

生産システム構造的に”台湾を使わざるを得ない”のは確かに事実なのですが、”生産クオリティの安定性向上”がその土台になっていますから、現在では”台湾製=ハイクオリティバイクの必須条件”であると言うことが実際の状況です。もちろん、どんな場所で生産しても、同じやり方であれば同じ製品が出来る上がるのですが、その場所における国民性や環境、あるいはコストがそれを阻み、バランスを崩します。ゆえ、ヨーロッパで生産した場合にはコストがかかりすぎますし、中国の生産工場ではまさに皆さんのイメージ通りの体制が維持されているというワケです。

これはもう既知の事実ですので申し上げますが、スペシャライズドを生産しているメリダというのはとてもハイクオリティを”売り”にした生産体制を維持しており、約10数年前に現在のToyota Production System(以下TPSと略)を導入し、現在に至ります。そして、それはスペシャライズドの経営が傾いた時、メリダが手を差し伸べた時点と一致します。

パイプの切り出し・加工 〜 溶接 〜 研磨・ペイント 〜 組立・出荷

実際の生産においては”20”という数字がキーワードです。これは生産管理する際の数量で、全ての工程はこの20本単位で行われ、管理されます。メリダの工場内部は一切の撮影が禁止になっています。これは恐らく、その生産方式や実際の現場で何が行われているかをコピーされる事に対しての対策であろうと推測します。

なお、ここでは”工員”ではなく、”技術者”と呼ぶことにします。それに見合った体制が確保されており、彼ら自身もそのつもりで作業していることは、私が見てすぐに理解できたからです。

パイプの切り出し・加工

例えば最初の工程であるパイプの切り出し・加工においては、下管(ダウンチューブ)という札が付けられた箱が用意され、そこには20本のパイプが刺さっています。その隣には上管(トップチューブ)と書かれた箱が同様にあり、自転車を構成する10本のパイプが同様に並べられます。”町工場”を想像してください。まさにあんな感じです。各ブースでは技術者が機械の前に立ち、その20本を1人が担当し加工を行います。何時から作業を開始し、何時に終了し、誰が行ったか、あるいはその管理を誰が行っているかが全て記録されます。そして、次の工程へ箱は移動して加工を終えます。20本単位で管理されたフレームは、他メーカーの工場の”ウナギの寝床”ようなだだっ広いスペースでジャンジャンと生産されることはなく、あるいはフレーム同士がガチャガチャぶつかるような状況で管理されることはありません。Googleでちょっとキーワードを考えて検索して頂ければ、そんな工場の内部写真がいくつか出てくるでしょう。

技術者のレベルには当然ながら差が発生します。メリダでは一つの工程毎にスキルシートが張り出され、どの技術者がどのスキルを取得しているかが一目で分かるようになっています。スキルの数はそれぞれの工程において20程度はあり、信号機のように色分けされたマークが貼られているので、もう少しであるスキルを取得できそうであるという状況まで分かりますし、トータルで各工員が評価をされたランク付けもA〜Dというようにしてオープンにされています。誰が上手いか下手か、どの作業をとくとしているか、あるいは技術力向上の為に努力しているかどうかが一目で分かってしまうというわけです。

もし、加工ミスなどによって不良を発生させた場合には、発生日時、技術者名、管理者名のもとに実際の不良加工品が掲示されてしまいます。ミスをした本人は毎時それを心に刻むことでミスをしてはいけないという向上心を持ち、また他の技術者もそれを見て同様に思うことでしょう。

ちなみに我々ディーラーからのクレームに対して、ミヤタサイクルからメリダへ連絡をしたケースでは、実際にそのバイクに関しての該当箇所の作業をした人間を”処罰しました”と連絡が来たそうです。フレームの生産ナンバーから、すべてトラックバックが可能な状況というわけです。

しかしながら、技術者はスキルを取得すればするだけ、生産クオリティを上げただけ、効率を維持しただけ正当に評価をされますので、大変に労働意欲は高いそうです。これはどこかの国の季節労働者をメインにした生産体制とは全く異なることは想像しやすいのではないでしょうか。

溶接

溶接を担当する技術者の間では毎年溶接技術のコンテストが行われます。その作品は常に掲示されており、最初に行われた10数年前からの結果も同時に掲示され続けています。またその作品を実際に目にしたのですが、それはもうすばらしいものでした。キレイについていましたよ。

新入りの作業員はすぐに自分の溶接ブースを与えれる事はありません。まずは見習いとして熟練の作業員の指導の下に練習を繰り返し行います。そのスペースも用意され、その時にも2名の見習い作業員が一生懸命に学んでいました。その後ろには常に怖い目を光らせた熟練作業員が先生としてついており、事ある毎に指摘をしていた光景が目の前で行われていました。彼は多くのスキルの内のいくつかを取得することが出来て始めて実際の作業に当たることが出来ると言うことです。

ペイント

最後のペイントブースに入る前には大きなドアがあり、そこから先は靴底を覆うビニールを付けていないと入ることは許されません。その扉は人が入る時のみ、少しだけ開けることが許され、可能な限りのチリやホコリが入らないように厳重に管理されています。実際のペイントブースにたどり着くまでには同様の扉があと2枚あります。常に空調が全開で稼働し、異物をフレームに付着させないようにしています。余計なものが付着してしまえば、ペイントが禿げやすくなる原因にもなり得ますし、クオリティは下がってしまいます。実際、メリダのバイクはペイントに対しての衝突やスクラッチに対しては強く、買った当初からペリペリ塗装が剥げ落ちてしまうことはありません。

奥へ入っていくとペイントを行ってる工程を見ることも出来ましたが、そこは一般的に想像するペイントブーストは全く異なります。先ほど申し上げた何枚目かの扉をくぐったと同時に「ジャー」という水流を示す音が全体に響き渡ります。ペイントブースの壁には上から水が流れる仕組みになっており、ペイントガンで吹き付ける際に周囲に飛び散った塗料が着かないようになっています。作業員は全員マスクをしていますが、これも他の工場では普通のことではありません。

1本のフレームをペイントし終えるまでには4度ほどの工程を繰り返しますし、それ以外に高圧を掛けた塗料を噴射させて微粒化し、これに電荷を与えて塗料を付着させる静電塗装を行っています。人間の手では届かない箇所へ均一に塗装する為の方法です。細かい箇所まで人間が塗装してしまうと、塗料が付着しやすい箇所には”液だまり”が出来てしまいますし、塗装の厚さも均一にすることが出来ません。

この間中、フレームは宙づりの状態で運ばれていますが、その際にぶつかってしまったり、あるいは他の理由でペイント不良が発生した個体はある特別なペイントブースへと運ばれます。そこには最も熟練した技術者がおり、可能であれば該当箇所の塗装を剥がしたり磨いたりした上で、修正塗装を行います。もちろん、見ても分からない程度までのクオリティを維持させます。

なお、現在はまだ稼働していませんが、ペイントに携わる技術者の中でも特に優秀な技術者を”マイスター”として社内で評価し、さらに特別なペイントブースを与える予定だと言うことです。ここではハイエンドのラインでより高い品質なペインティングを実現することが出来ます。

ペイントを終えたフレームにはデカールが貼られ、その上にはクリア塗装が施され、組立ラインへと運ばれていきます。実際に組立ラインへ運ばれるまでには数日の期間があります。管理された生産計画の元に組み立てて出荷されていくからです。

そして、最後の最後。20台の中からランダムに一台を組立テスト。不合格なら20台はポイ。
そこまでしますよ、メリダはね。

箱に入ったままで日本まで届き、それをチェックすることも疑うことも無くディーラーまで届き、2013年モデルだって入荷した数量の半分が不良で、残った半分と”ニコイチ”して出荷した、なんて話もザラにある某社や某社はどうなってるんでしょうね?

ハイクオリティがメリダの真骨頂

2メーカーのミドル・ハイエンドバイクにおいてのここまでの工程を全て、私が見せて頂いた台中の本社工場で行っています。ミドルとはメリダで言うところのMGDモデルを指します。ゆえ、このMGDモデルを販売する我々ディーラーは、単純な販売数だけで判断されない審査を通過したディーラーのみが販売を許されており、それはメリダ本社が持つ思想やそれに基づく生産体制、ワークスチーム活動の全てにおいて一貫して共通するものです。

メリダは何を大事にするか

それは
「Family」
「Merida loves competition」
です。

メーカーからユーザーに至るまでがファミリー、つまりは一つの家族として交流を深め、楽しもうじゃ無いかという思想です。これは偽善的な意味では無いと思います。例えば、MULTIVAN-MERIDAチームのカラーであるメリダグリーン、これはメリダのコーポレートカラーでもあります。多くのチームカラーモデルはメリダバイクに乗りたいと思う人の憧れの的になっています。確かにかっこいい!

そして2012年に発足したMERIDA-MIYATA BIKING TEAMはこの同じグリーンを纏うことによって”ファミリー”の仲間入りをしたのです。

毎年2月にマヨルカで行われるディーラーキャンプでは副社長であるWilliam Jeng氏自らが斉藤亮の肩を抱き、握手をし、ファミリーに迎え入れてくれました。極東の彼らから見れば小さな販売数しかないディストリビュータのチームに、しかも名も知られていない5年目のライダーに対して、ここまでのホスピタリティと歓迎の意を示してくれるメーカーは他に全くありません。

これはある意味、アジアでのメリダブランド周知と拡販に対して彼らが”本気”である証拠ですが、単に「売れ売れ」とだけ言ってくるメーカーやディストリビュータには無い感覚でしょうし、我々ディーラーもユーザーサイドへの”本気度合い”は全く異なってきます。この辺りは昨今聞かれているでしょう、自転車業界独特の慣習等についても関連することかと思います。

先日のメリダカップにおいても、また私自身も同じ色のアパレルやグッズを身につけ、楽しんでいます。これは以前のMTBブランドにおいてはあった事でもありますが、昨今のブランドにおいてはあまり見かけない風景です。全くメリダを知らない人までが「かっこいいね」と言ってくれる事はとても大事なことだと思います。だって、誰もかっこ悪いものは身につけたいと思いませんし、かっこ悪いバイクに乗りたいと思う人もいませんから。

長々とお話ししましたが、これがメリダというブランドの真の姿です。

ヨーロッパで認められることが出来なかったライバルメーカーとは異なり、完全に”ハイクオリティメーカー=真の高級ブランド”として認知されるまでに至っています。

日本においても、少しでもメリダについて興味を持って頂けるならば、またそこでは少しでも私の話を信用して下さい。

”日本ではブランドイメージが重視される”と言いますが、それはどこの国でも同じ事です。ブランド意識の無い国などありませんよ。でも、異なるのはブランドイメージの表面だけを見ているのは日本であり、その中身についても評価することが出来る”情報”を与えないと言うことが実際ではないでしょうか。

情報が無いまま、つまりは1年前までの私も全くイメージが湧いていませんでしたし、メリダのバイクが本当に良いバイクだなんてこれっぽっちも感じることは出来ていませんでしたよ!

現在、メリダについて知られていないことは普通のことです。他のメジャーブランドを扱っているディーラーさんの中でメリダについて全くご存じない方がほとんどですから、そんなディーラーさんに「どうですか?」と聞くのは間違いです。知らなければ評価のしようがありません。

正しく知ってください。そして、他メーカーと正当に比較され、評価して頂きたいと思います。

最後まで長々とお読み頂きまして、誠にありがとうございました。